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■2003/06/28 (土)
前田普羅・久内清孝・牧野富太郎(1) |
漱石から「古今独歩の誤植多き書物」をもらった久内清孝氏が、漱石とどんな関係にあったのか、まったく今わかってないのですが、普羅の震災記「ツルボ咲く頃」に登場する久内君のフルネームを、前にもご紹介した普羅の自句自解のエッセイ『渓谷を出づる人の言葉』に、見つけました。それは偶然の同姓同名とは考えられない名前・「久内清孝氏」なのです。以下、普羅の句
葛 の 葉 や 翻 る と き 音 も な し
につけられたエッセイです。
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俳句に関係の深い植物だけでも、実際に研究して置いたら、と久内清孝氏が云われたので、ちょうど萩の真盛り、先づ萩だけでも調べてみようと、久内氏に従いドウランをかついで野外に出て、同氏の指揮で植物を見はじめたのは、自分が植物に対する関心の緒口であった。萩の種類は多かった。萩の種類の多いことよりも、萩を求める為に草木を分けてあるく間に見た、あらゆる植物の形態美は、どんなに自分を縛った事だろう。自分は野外採集の最初の日において、萩ばかりじゃない、すべての植物を打ちながめようと決心した。
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■2003/06/28 (土)
前田普羅・久内清孝・牧野富太郎(2) |
歴史の古い、また創立理由の最も美しい横浜植物会例月の野外採集に出ては、理学博士牧野富太郎先生をはじめ、その門下の若い沢山の自然科学者に接する事ができた。牧野先生に直接指導して頂くほかに此等の若い自然科学者の日常の研究を知り、また久内氏からその師牧野博士の近況や研究を聞く事は自分を喜ばせた。殊に世界的科学者にして一面飄々たる自然人の風格を有する牧野先生に近接する事は、月に一度の野外採集をどんなに待ち遠がらせた事であろう。
農林省に居られた農学博士桑名伊之吉先生も、植物の研究は君の俳句に新天地を拓くだろう、と喜んでくださった一人であった。
かくて横浜郊外の山谷は久内氏に引きづられてあるき尽くした。葛の大葉は秋の山谷をつつんで居て、風にひるがえる時、その特有の白色の裏を見せてくれた。
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このエッセイには具体的年代が入っていないのですが、大正初期の普羅の横浜時代のことです。普羅三十代、牧野富太郎五十代の頃でしょうか。
ところで夏目漱石の弟子?で、牧野富太郎の弟子で、ジャーナリストでもあった久内清孝氏とはどんな人だったのでしょうか。
そして私は植物の形態美に魅せられたさすらいの人文学者ルソーのことも思い出しています。きょう6月28日は、ルソーの誕生日(1712)であり、ルソー週間(*)の初日なのです。
*ルソー週間。
実は、こんなものは存在しません。6月28日に続いて、7月2日がルソーが亡くなった日(1778)なので、私が勝手に名付けでっちあげただけです。なお、7月4日が、アメリカの独立記念日(1776)。7月1日には、ルソーと不思議な縁をもつジョルジュ・サンドが生まれています(1804)。
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■2003/06/28 (土)
「古今独歩の誤植多き書物」 |
・《古今独歩の誤植多き書物として珍本として後世に残ること受け合いなれば御秘蔵くだされたく候》
――こんな手紙を漱石からもらった人がいる。久内清孝氏。久内氏が手紙とともに受け取った「誤植多き書物」とは、漱石の東大講師時代の講義録『文学論』(1907年[明40])であるという。
余りの誤植の多さに怒った漱石が、その本をみずから焚書!?の刑にしようとしたたとも言われる有名な話らしいのですが、大文豪とはお近づきではない私は、きょう「誤植」にまつわるエピソードとして知ったばかりです。
私は、別の興味からこの「久内」姓に目がとまりました。この「久内」姓、前にも出逢っていて印象に残っていたからなのです。
・先日(6/15)紹介した前田普羅の震災記。この冒頭に登場するのが「久内君」なのです。再録。
《野には「ツルボ」が咲いていた。
大正十二年九月一日、「ジャパン・タイムス」横浜支社の柱時計は静かに長く十二時を打った。事務所のあるじ久内君は自分に構わず、遠雷の如き響を立ててタイプライターを打っていた。
「帰ろうか」と自分が言い終わった時、突然微震を先駆としない強震が椅子を突き上げた。》
当時、普羅が勤務していたのは「報知新聞」。ここに登場する「ジャパン・タイムス」は友人・久内君の勤務先のようなのです。<十二時>に普羅が「帰ろうか」と言った意味もそれで明らかになります。訪ねた友人が忙しそうだったので、おいとましようとしていた矢先の大地震だったのです。いずれにせよここに偶然登場した「久内君」のこと、少し気になりながらも忘れかけていたところに、漱石から不思議な手紙をもらった久内清孝氏の名前に出逢ったのです。
(「前田普羅・久内清孝・牧野富太郎」(1・2)に続いています。)
〔追記:「古今独歩の誤植多き書物」(続)〕
http://www3.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=325457&log=20080830
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