きっこの日記

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2006年08月19日

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さるさる日記
■2006/08/19 (土) ゲド戦記 1

「やばい! あたし、このまま寝ちゃいそう〜!」

「え? キョーコ、寝不足?」

「毎晩、暑くて寝られないのよね〜エアコンつけて寝ると、お肌パリパリ、のどカラカラになっちゃうし〜」

「そんなら、ゲド戦記、観に行けばいいのに〜」

「なんで?」

「先週、マリエとチカと一緒に観に行ったんだけど、あまりにも退屈でつまんなくて、始まって30分もしないうちに爆睡しちゃって、気がついたらエンドロールだったのよ〜」

「そんなに退屈なの?」

「あたしはほとんど観てないけど、マリエとチカは半分くらいのとこで耐えなれなくなって寝たって言ってたから、少なくとも、前半の1時間は眠くなるほどつまんないみたい‥‥」

「でも、テレビとかで、大ヒット上映中!って言ってるじゃない?」

「そう? あたしはハウルでガッカリしたから、今度は期待してたんだけど、ハウルよりもグンとつまらなかった‥‥なんかね、アニメでストーリーを伝えるんじゃなくて、登場人物が順番に長ゼリフでストーリーを説明してるから、だんだん眠くなって来て、そのうち目をつぶってセリフだけ聞いてたら、寝ちゃったって感じ〜」

「そうなんだ〜」

「なんかね、どのセリフもみんな長くてクドクドした説明口調だから、なんか大石部長の説教を聞かされてるみたいな気分になってくるのよ〜」

「マジで〜?(笑)」

‥‥っていう、20代前半の女の子2人の会話を電車の中で聞いたあたしは、心のメモ帳に、「ゲド戦記、眠くなるほどつまんない」ってメモして、地元の駅で降りた今日この頃、皆さん、いかがお過ごしですか?

■2006/08/19 (土) ゲド戦記 2

‥‥そんなワケで、例によって、電通だのスポンサーだの自民党だのナンミョーだのと、各所からの圧力に弱いテレビやスポーツ紙は、「大ヒット上映中!」とか「満員御礼!」とかって大嘘をノタマッてるけど、実際に観に行った人たちからは、「客をバカにしてんのか!」とか、「あまりにも酷すぎる‥‥」とか、「金返せ!」とか、「宮崎アニメも終わったな‥‥」とか、酷評ってよりも、メチャクチャに罵倒されちゃってる「ゲド戦記」だけど、あたしは、宮崎駿が、映画経験ゼロのドシロートの息子に制作させたって話を聞いた時点で、「少なくとも、お金を払ってまで観る価値はないな」って思ってた。そして、前回の「ハウルの動く城」のキムタクの大失敗にも懲りずに、またまた、ジャニタレなんかを声優に起用したって話を聞いた時点で、「1年後にテレビでやっても観ない」ってことが決定してた。

だから、あたしとしては、今さら、こんな駄作なんかどうでも良かったんだけど、この「ゲド戦記」の原作者、アーシュラ・K・ル・グウィンさんていうSF女性作家が、8月14日付で、自分のホームページに、すごく厳しいコメントを発表した。なんでかっていうと、ニポンで「ゲド戦記」を観た人たちから、原作の「アースシー」の内容とあまりにも違うため、原作者のグウィンさんのとこに、たくさんの質問メールが殺到したからだ。それで、ひとりひとりに返信を書くこともできず、自分のホームページに、公式のコメントを発表したってワケだ。それで、その内容が、あまりにもビックル一気飲みなので、リトル取り上げてみることにした。コメントの原文は、最後にURLをリンクしとくので、詳しく読んでみたい人は原文を読んでもらうとして、痒いところに手が届く「きっこの日記」としては、重要な部分だけをピックアップして行く。

グウィンさんのコメントは、まず、自分が書いた原作と、出来上がった映画、「ゲド戦記」の内容が、あまりにもかけ離れているけど、原作者と映画会社との契約書には、「映画制作のすべてを映画会社に一任します」という規定があるため、自分からはヒトコトも文句を言えない‥‥ってことが書かれてる。だから、「原作と映画の内容がぜんぜん違うのはどうしてですか?」って質問をされても、自分は何も答えられないし、それ以前に、あまりにも内容を変えられてしまって、一番驚いてるのは自分なんだから‥‥ってことが書かれてる。そして、「これは、映画の制作者が勝手にやったことで、原作者の私には、映画について何の責任も負えない」ってふうに念を押してる。

■2006/08/19 (土) ゲド戦記 3

それで、コメントの本文は、20年ほど前に、宮崎駿から、「あなたの作品をアニメ映画化したい」っていう手紙が来たってことからスタートしてる。当時のグウィンさんは、アニメといったらディズニーしか知らず、ディズニーアニメは嫌いだったので、自分の作品をアニメ映画化する話をその時は断わった。だけど、今から6〜7年前に、友人から紹介された「となりのトトロ」を観て、宮崎アニメの大ファンになり、そして、今回のアニメ映画化へと話が進んで行った。そして、去年の8月に、「ゲド戦記」のアニメ映画化の話で、宮崎駿とスタジオジブリの鈴木敏夫が、グウィンさんの自宅を訪ねた時のことだ。この時、宮崎駿は、「自分はもうアニメ映画制作から引退します」ってことを告げたあとに、「今度の作品は、今まで一度も映画を作ったことのない息子の吾朗に任せたいのです」って言った。その話を聞いたグウィンさんは、「非常に失望したし、とても不安になりました」って言ってる。それゃ当然だろう。今まで、すべての映画化の話を断わって来たのに、「となりのトトロ」を観て、宮崎アニメの大ファンになって、宮崎駿にだったら任せてもいいってことで決断したのに、いざ、話を進めてみたら、映画を作るのは、ドシロートの息子だって言われたんだから‥‥。これじゃあ、長嶋茂雄が監督をやってくれるって言うから、野球のチームを作ったのに、現れたのは長嶋一茂だった‥‥ってのとおんなじくらい、ガックリ来ちゃうだろう。

だけど、不安な顔を見せたグウィンさんに対して、宮崎駿は、「制作は息子に任せますが、私がすべて責任を持って、企画から制作までを管理します」って約束した。それで、グウィンさんは、宮崎駿のこの言葉を信じて、「ゲド戦記」のアニメ映画化の契約を結んだのだ。でも、このグウィンさんの思いは、すぐに裏切られることになった。制作の途中経過の知らせなどで、グウィンさんは、この作品に宮崎駿がまったく関与していないこと、約束が守られていないことを知った。グウィンさんは、この時の思いを次のように言っている。

「日本で制作しているこのアニメ映画の問題によって、太平洋をはさんだこちら側のアメリカでは、今、私が、ひどい怒りと失望に苦しんでいて、とても残念に思います。聞くところによると、宮崎駿氏は、結局、まだ引退はしていないが、現在は別の映画を作っているそうです。この事実が、私の失望をさらに大きくしました。私の映画を作ったあとに、別の作品に取り掛かってくれればいいのに‥‥」

■2006/08/19 (土) ゲド戦記 4

‥‥そんなワケで、このあと、グウィンさんのコメントは、「ゲド戦記」が完成したあとの話へと進む。東京での試写会に行けなかったグウィンさんのために、今年の8月6日に、宮崎吾朗と鈴木敏夫が、アメリカまでわざわざパイロット版を持参して、ダウンタウンの映画館で試写会を行なったと書かれていて、この件に関しては、「スタジオジブリはとても親切だった」って言ってる。そして、子供たちの反応を見るために、たくさんの子供たちを招待して、試写会が行なわれた。もちろん、グウィンさん自身も、この日、初めて「ゲド戦記」を観たワケで、自分の書いた原作との、あまりの内容の違いに、とても驚いた。

そして、試写が終わったあと、宮崎吾朗から感想を聞かれたグウィンさんは、「これは、とても良い映画だとは思いますが、私の書いた作品ではありません。これは、あなたの映画です」って答えた。それで、今回、自分のホームページ上にコメントを発表する上で、「ゲド戦記」を観た感想の補足として、次のような点をあげている。ちなみに、コメントの原文では箇条書きにはなってないけど、分かりやすくするために、あたしが勝手に箇条書きにした。

1.多くのシーンは美しく描かれていましたが、短時間に急いで制作されたアニメ映画の中で、原作の中の重要なシーンがたくさんカットされていました。この映画には、「となりのトトロ」のような繊細なディティールや、「千と千尋の神隠し」のような力強さ、そして、細部にまでこだわった豊かな感性が感じられませんでした。また、それぞれのキャラクターは悪くはありませんが、とても月並みに感じました。

2.私の書いた原作の精神に反して、この映画はとても暴力的に描かれていますし、その暴力にも一貫性がないと感じました。これでは、原作とまったく異なる物語であり、ストーリー上の人物像も、歴史観も、運命までもが、大きく違います。もちろん、小説と映画は異なる芸術ですから、小説を映画化する以上は、ある程度の変更は仕方ないかも知れません。しかし、私の書いた原作は、40年もの長きに渡って印刷、出版され続けているのです。そういった原作を映画化し、タイトルまで同一にするのであれば、キャラクター設定やストーリーなど、もっと原作に忠実に制作するのが当たり前だと思います。

■2006/08/19 (土) ゲド戦記 5

3.アメリカや日本の映画制作会社は、何かの本を原作として映画を作る場合、原作を「鉱山」のように扱います。つまり、登場人物の名前や、面白いと感じたシーンなどだけを掘り出し、全体のストーリーなど無視して、勝手に物語を作り上げてしまうのです。これは、その原作だけでなく、原作の読者をもバカにした行為です。今回は、このようなことだけはないだろうと思っていたため、私は、とても驚いています。

4.私は、この映画におけるメッセージの出し方が、少し雑に感じました。映画の中で、何ヶ所か、生と死に関する見解やバランスなどについて、私の書いた原作からそのまま引用されている部分がありましたが、キャラクターやストーリーが大幅に変更されていては、私の意図は正しく伝わりません。「アースシー3部作」の中には、いくつかの金言的な部分がありますが、それらは、正しいキャラクター設定やストーリーがあっての言葉であり、この映画のキャラクターやストーリーでは、ただの説教じみた言葉になってしまいます。

‥‥そんなワケで、ここから先は、ネタバレ的な要素を多分に含んでるみたいなので、これから「ゲド戦記」を観に行く予定の人は、自己判断、及び、自己責任で読んでちゃぶだい。

5.原作での道徳心は、映画では混乱しています。たとえば、映画の中で、アレンが父親を殺すシーンには、何も動機がありませんし、とても自分勝手な行動のように感じます。暗い影や自分の分身がやって来る、と説明されても、まったく説得力がありませんし、それ以前に、なぜ、少年の精神が2つに分かれたのか、という点が、ぜんぜん理解できません。この部分のアイデアは、「アースシーの魔法使い」から取ったのだと思いますが、私の原作では、ゲドを追う「影」が、なぜ現れたのかをちゃんと説明していますし、最後には、その「影」の正体もはっきりさせています。さらには、私の原作では、「魔法の剣」を使っても「影」を追い払うことはできません。しかし、この映画では、「魔法の剣」で「影」を退治して、「悪者は殺せばいい」という短絡的な解決の方法を取っています。私の原作では、「正義」が「悪」を倒したから「平和」になった、というような、単純な問題提起に単純な解決、という方法はありえません。

6.私の原作のアースシーのドラゴンのほうが、映画のドラゴンよりも美しいと思いますが、吾朗の描いたドラゴンが、高貴に翼をたたんで行くシーンは、とても素晴らしかったと思います。

■2006/08/19 (土) ゲド戦記 6

彼の想像する動物たちは、とても柔軟性があるように感じます。私は、ラマ馬が耳を動かして感情を表現するところが好きでした。また、水を引いたり、畑を耕したり、馬小屋での動物のシーンなどは、映像から土の匂いがして来るようで、とても気に入りました。常に対立しているストーリーやアクションシーンの中で、これらのほのぼのとしたシーンは、とても良い気分転換になりました。そして、私は、少なくともこれらのシーンには、私の書いたアースシーの世界観を感じることができました。

7.私が、原作において、アースシーの民族のほとんどを有色人種にした目的、そして、辺境の保守的な民族を白人にした目的は、アメリカやヨーロッパの若い人たちに向けての設定です。ヨーロッパの伝統的なファンタジーのヒーローは、必ず白人ですし、逆に、肌の色が黒い者は、邪悪なものにつなげて考えられることが良くありました。ですから、「ファンタジーのヒーローを有色人種にする」ということは、そういった昔からの白人社会の伝統を破壊するだけでなく、世の中の偏見を弱めることもできると考えたのです。以前、アメリカのテレビで「アースシー」のドラマを制作した時には、制作スタッフたちは、人種差別をしないことを公言していたのにも関わらず、アースシーの民族のほとんどを白人にしてしまったのです。このことは、未だに頭に来ています。今回のアニメ映画でも、アースシーの民族のほとんどは白人のように見えましたが、私たちの目からは白人のように見えても、日本人の感覚だと違うということを聞きました。日本人の観客からは、肌が白くても、有色人種のように見える、と聞きました。また、全員が白い肌ではなく、タンやベージュの肌の人たちも混じっているため、少しは救われました。

‥‥そんなワケで、あたしは、原作も読んでなけりゃ映画も観てないワケで、個人的な意見を言える立場じゃないから、グウィンさんのコメントをニポン語に訳しただけなんだけど、これを読むと、原作者の意図の通りに表現されてるのは、ストーリーとは無関係な、水を引いたり、畑を耕したり、馬小屋での動物のシーンだけみたいだ。だから、これから、「ゲド戦記」を観に行くような殊勝な人たちは、これらのシーンに注目して、それ以外の部分は、熱帯夜の寝不足を解消するために、グッスリと眠って欲しいと思う今日この頃なのだ(笑)

「グウィンさんのコメントの原文」
http://www.ursulakleguin.com/GedoSenkiResponse.html

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